研究紹介

神経再生研究チーム

Neural Regeneration Research Team
チームリーダー 篠崎 宗久(特任准教授)
研究ターゲット 脳・脊髄の損傷・障害
研究目的 iPSC由来神経幹細胞・遺伝子治療を用いた、脳・脊髄の機能再生
主な研究トピック

・霊長類,げっ歯類における脊髄損傷モデル動物の病態解明
・iPS由来神経幹細胞のモデル動物障害部位への移植による機能再生
・ex vivo、in vivoアプローチによる脳・脊髄の遺伝子治療
・最新の画像解析,遺伝子解析を用いた病態と治療効果の評価

主な研究成果

【研究室の道のり】

私たちは、これまで20年間、整形外科学教室の中村雅也教授たちと協力しながら、脊髄損傷の治療方法を研究してきました。研究では、神経組織の元となる神経幹細胞を、傷ついた脊髄に移植すると機能が回復することを早い段階で見出していました。しかし当時、日本では倫理上の問題で神経幹細胞の元の細胞として用いていたESC(Embryonic Stem cell)を用いることは出来ませんでした。そこで2006年、まだノーベル賞受賞前の山中伸弥先生との共同研究を開始し、以降、iPSC(induced Pluripotent Stem cell)由来神経幹細胞を用いた研究を続けております。


【臨床試験の開始】

iPS由来神経幹細胞を用いた様々な研究の積み重ねの結果、2019年、実際に患者さんに行う臨床研究の許可を厚生労働省から頂きました。始めは、主に効果を実証するための研究ではなく、安全性など治療に問題がないかどうか見るための試験で、損傷を受けて間もない比較的急性期の4人の患者さんだけに行うことになりました。
コロナ禍により時折受け入れを中断致しましたが、無事、予定通り4人の患者さんに移植治療を行うことができました。その結果は2024年末に発表予定です。
この試験に大きな問題がなければ、実際に効果を検証する治験に移ります。治験には多くのお金がかかるため、現在企業と協力して準備を進めています。

【真の再生のために】

神経幹細胞の移植では、大きな機能の再生が起こるものの、完全には良くならないことも示されています。特に、脊髄損傷患者さんの状態の多くを占める慢性期損傷脊髄に対する効果が不十分でした。またこれまでの研究は主に胸髄損傷のモデル動物に対して行われており、頚髄損傷へ治療を行った際の厳密な効果が不明瞭でした。そのため、当研究室では引き続き中村教授と協力しながら、さらなる治療効果の改善を図るための研究を続けています。例えば、移植する幹細胞への遺伝子治療をあらかじめ行う事で、移植後の機能を促進する様な成果が出ています。頚髄損傷に対する移植効果もはっきりとしてきました。重度の障害を持つ慢性期の患者さんが歩けるようになる様な治療が実現するまで、私達の研究は続きます。

また、脊髄と同じ中枢神経である脳も現在の医学では再生しません。脳も脊髄と同じくらい、またはさらに複雑な構造をしているため、障害を受けた脳を再生して脳卒中や脳外傷の後遺症を治す方法はまだありません。私達は、脊髄で臨床段階まで進んだ研究の蓄積と知識を生かして、iPS由来神経幹細胞や遺伝子治療を用いて、脳の再生も研究していきます。

神経難病研究チーム

Intractable Neurological Disease Research Team
チームリーダー 森本 悟(特任准教授/副センター長)
研究ターゲット 筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis (ALS))およびその他の神経難病
研究目的 疾患特異的iPS細胞およびヒト生体・剖検試料を用いた、ヒト神経系病態の解明と創薬を目的とする
主な研究トピック

ヒト疾患モデルを用いたiPS細胞創薬遺伝子治療
・ヒトグリア細胞(アストロサイトおよびミクログリア)とニューロンとの共培養系
オルガノイドおよびアセンブロイドを用いた高次脳-末梢連関モデルの構築
シングルセル解析、空間トランスクリプトーム解析等のマルチモダールRNA発現解析
・神経系細胞の迅速誘導系および評価システムの開発
ヒト剖検脳を用いた分子生物学的解析
ヒト体液試料エクソソームを用いたバイオマーカー開発
深層学習を用いたデータ解析技術の開発

主な研究成果


組織再生研究チーム

Tissue Regeneration Research Team
チームリーダー 八代 嘉美(慶應義塾大学 特任教授/藤田医科大学 教授)
研究ターゲット 組織再生に関わる細胞集団の特性解析と分裂行動パターンニング
研究目的 iPS細胞およびヒト生体試料を用いた、ヒト組織幹細胞の品質評価に関わるエビデンス構築
主な研究トピック

・iPS細胞およびヒト生体試料からの組織幹細胞の分離・誘導
・細胞品質の指標となるパラメーターの創出
・再生医療の実装に向けた環境整備

 

主な研究成果





Ludwig TE, Kujak A, Rauti A, Andrzejewski S, Langbehn S, Mayfield J, Fuller J, Yashiro Y, Hara Y, Bhattacharyya A.
20 Years of Human Pluripotent Stem Cell Research: It All Started with Five Lines.
Cell Stem Cell. 2018 Nov 1;23(5):644-648.

Inoue Y, Shineha R, Yashiro Y. Current Public Support for Human-Animal Chimera Research in Japan Is Limited, Despite High Levels of Scientific Approval. Cell Stem Cell. 2016 Aug 4;19(2):152-153


Ikka T, Fujita M, Yashiro Y, Ikegaya H. Recent Court Ruling in Japan Exemplifies Another Layer of Regulation for Regenerative Therapy.
Cell Stem Cell. 2015 Nov 5;17(5):507-8.

ヒト脳器官発生チーム

Human Brain Organogenesis Team
ーCortical development and neuropsychiatric disordersー
チームリーダー 嶋田 弘子
(慶應義塾大学 殿町先端研究教育連携スクエア  特任講師)
(大阪大学 ヒューマン・メタバース疾患研究拠点 招へい准教授)
研究目的 ヒトiPS細胞由来の大脳皮質オルガノイドを用いた、中枢神経発生メカニズムの解明、
および、精神神経疾患モデル作製と病態メカニズムの解明、創薬への応用
主な研究トピック

1.認知症モデル大脳皮質オルガノイドの作製と病態メカニズムの解明、創薬研究への応用
(Shimada et al., Cell Reports Methods, 2022)
2.次世代型大脳皮質オルガノイド基盤技術の開発
・ミクログリア含有神経免疫オルガノイドの作製
・アストロサイト-エンリッチ脳オルガノイドの作製
・大脳皮質オルガノイドのマウス脳への移植による、血管化オルガノイドの作製
(嶋田, 岡野, 2024, 実験医学増刊号)

主な研究成果

【タウ凝集モデル、アルツハイマー病(AD)モデル脳オルガノイドの作製】

マーモセット神経疾患モデル研究チーム

Marmoset Models of Brain Diseases Team
チームリーダー 岸 憲幸(特任講師)
研究ターゲット レット症候群(Rett syndrome)およびその他の神経発達障害
研究目的 霊長類モデルマーモセットやiPS細胞を用いて、レット症候群や関連疾患の病態メカニズムの解明、治療法開発の土台作りを目的とする
主な研究トピック

・ゲノム編集技術を用いたレット症候群の霊長類モデルMECP2変異マーモセットの作製
・レット症候群の症状を忠実に再現するMECP2変異マーモセットを用いた病態メカニズムの解析
・MECP2欠失によるマーモセット脳での遺伝子発現変化の解析
・疾患解析を目指したMRI撮影によるマーモセット脳構造・機能マップの作成
・MECP2変異マーモセットから作製したiPS細胞を用いた in vitroでの病態解析
・MECP2や関連遺伝子を組み込んだAAVや薬剤によるMECP2変異マーモセットの治療効果の検証
・レット症候群の病態に直結するMECP2下流遺伝子の解析

主な研究成果


  • Okano H, Kishi N, Investigation of Brain Science and Neurological/Psychiatric Disorders Using Genetically Modified Non-Human Primates. Curr Opin Neurobiol, 2018
  • Yoshimatsu S, et al., Generation of a Tyrosine hydroxylase (TH)-2A-Cre knock-in non-human primate model by homology-directed repair biased CRISPR-Cas9 genome editing. Cell Rep Methods, 2023.
  • Hata J, et al., Multi-modal brain magnetic resonance imaging database covering marmosets with a wide age range. Scientific Data, 2023.

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